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モチベーション
- 行列を用いた座標変換をおさらいしたい
- 対角化で行列計算を楽にしたい
線形独立と線形従属
線形独立と線形従属 is 何?
列ベクトル $\boldsymbol{e}_k (k=1,2,\dots,n)$を$\forall l_j \in \mathbb {R} (j=1,2,\dots,m)$ を用いて以下のようにおいてみる.つまり, $\boldsymbol{e}_k \in \mathbb {R}^m$ .
次に,列ベクトル集合 $\lbrace \boldsymbol{e_1}, \boldsymbol{e_2}, \dots, \boldsymbol{e_n} \rbrace$と$\forall a_k \in \mathbb {R} (k=1,2,\dots,n)$ を用いて,以下のような線形和をつくる.
(1)式を0にできるような, $a_k$ が複数あるなら, $\lbrace \boldsymbol{e_1}, \boldsymbol{e_2}, \dots, \boldsymbol{e_n} \rbrace$ は線形従属であると言う.ベクトルをうまく組み合わせれば,一つの輪をつくることができるイメージ.
一方,(1)式を0にするには $a_k=0 (k=1,2,\dots,n)$ が必要である場合, $\lbrace \boldsymbol{e_1}, \boldsymbol{e_2}, \dots, \boldsymbol{e_n} \rbrace$ は線形独立であると言う.つまり,ベクトルを組み合わせても輪がつくれないイメージ.
線形独立と線形独立を判別する方法
(1)式=0とおくと,(1)式から $a_1l_{j1}+a_2l_{j2}+\dots+a_nl_{jn}=0$ という式がm本できる.つまり,n(=m)次の連立方程式となる.
列ベクトル集合 $\lbrace {e_1}, {e_2}, \dots, {e_n} \rbrace$ を合体させてm x nの正方行列とすると,(2)式のように整理できる.
ここで,正方行列の行列式が0以外なら(=正則行列であるなら),逆行列を持てるので, $a_k=0 (k=1,2,\dots,n)$ が唯一の解になる.つまり,列ベクトル $\lbrace \boldsymbol{e_1}, \boldsymbol{e_2}, \dots, \boldsymbol{e_n} \rbrace$ はそれぞれ線形独立であると判断できる.
一方,正方行列の行列式が0なら,逆行列が存在しないので, $a_k=0 (k=1,2,\dots,n)$ 以外にも解があることになる.つまり,列ベクトル $\lbrace \boldsymbol{e_1}, \boldsymbol{e_2}, \dots, \boldsymbol{e_n} \rbrace$ はそれぞれ線形従属であると判断できる.
基底と座標変換
$e_1$ と $e_2$ を以下のようにおいてみる.
これらが線形独立であることは自明だろう.
この線形独立な $e_1,e_2$ (基底という)を組み合わせると,あるベクトル空間をつくることができる.今回は $e_1,e_2 \in \mathbb{R^2}$ としたので,2次元のベクトル空間ができることになる.
例えば, $a_1,a_2\in \mathbb{R}$ を用いると,以下のような2次元ベクトルを表現できる.
特に,今回用意した $e_1,e_2$ は,それぞれ直交(内積が0)しており,かつ,それぞれの大きさが1なので,正規直交基底と呼ばれる.これは, $e_1$ をx軸の単位ベクトル, $e_2$ をy軸の単位ベクトルとしたデカルト座標系と見立てることができる.
ここで,(3)式のベクトルに,以下の正方行列 $\boldsymbol{A}$ を左から掛けてみる.
すると,(3)式は,以下になる.
$\boldsymbol{A}$ の各列ベクトルで基底を乗っ取ることができた. 仮に, $b_1=0, b_2=1, c_1=-1, c_2=0$ とすると,
と整理でき, $a_1$ が $e_2$ に移り, $a_2$ が $-e_1$ に移ったことから,行列Aによって(3)式のベクトルが反時計回りに90度回転したと解釈できる.
これは,基底ベクトルを以下の $e_3$ と $e_4$ のようにおいたことと同等である.
この基底によりつくられる2次元ベクトルは,(3)式の $e_2$ 方向を $e_3$ 軸とし, $-e_1$ 方向を $e_4$ 軸とした座標系上の2次元ベクトルと見立てることができる.
…
反時計回りに $\theta$ の回転といえば以下の式.基底を三角関数で乗っ取っていることになる.
$x$ 要素だけ取り出したい場合は,以下の行列を使うと良い. $e_1$ 軸への正射影を実現していることになる.
固有値問題
固有値の求め方
$M \times M$ の正方行列 $\boldsymbol{A}$ について,固有値問題は i=1,2,…,Mを用いて以下のように定義される.
ここで, $\boldsymbol{u_i}$ は固有ベクトル, $\lambda_i$ は固有値である.上式はM次の単位行列 $\boldsymbol{I}$ を用いて,以下のように整理することができる.
固有値問題では,自明解 $\boldsymbol{u_i} = 0$ 以外の解を求めたいというモチベーションなので, $\boldsymbol{A} - \lambda_i \boldsymbol{I}$ が逆行列を持たないようにする必要がある.行列式を0にすれば逆行列を持たないので,以下の固有方程式を解くことで,固有値を求めることができる.
固有ベクトルの求め方
以下を解くことで,各固有値ごとの固有ベクトルを求めることができる.
M次の正方行列Aの固有方程式は,複素数の範囲において必ず,M個の固有値・固有ベクトルを持つ.
固有方程式が重解をもつ場合
行列Aの固有方程式により,固有値 $\lambda_1=-1$ (重解)と $\lambda_2=5$ が得られる.
固有値 $\lambda_1$ の固有ベクトルを $\boldsymbol{u_1}^{T} = (u_{11}, u_{12}, u_{13})$ とすると,固有ベクトル $\boldsymbol{u_1}$ は以下を満たす必要がある.
ここで, $u_{12}=s, u_{13}=t$ とおくと, $u_{11}=-s-2t$ なので,固有ベクトル $\boldsymbol{u_1}$ は以下となる.
$s$ と $t$ は自由に選んでも良いので,固有値 $\lambda_1=-1$ (重解)の固有ベクトル $\boldsymbol{u_1}$ は以下の2つとなる.
実対称行列
- 対称行列;n次正方行列Aについて, ${}^t \boldsymbol{A} = \boldsymbol{A}$ を満たすもの
- 実対称行列;Aのすべての成分が実数である対称行列
行列Aが実対称行列の場合には,その固有値は必ず実数となり,固有ベクトルも実数の範囲で存在する.
実対称行列の固有ベクトル $\boldsymbol{u_i}$ は,以下のような,正規直交(=正規化済みの異なる固有ベクトル同士の内積が0)を満たす.
正規直交基底
正規直交基底とは,以下の3点を満たす列ベクトル集合のことである.
- 各ベクトルの長さが1に正規化されている.
- 互いに直交する.
- ベクトルを並べた行列が正則である.
例えば,以下は正規直交基底である.
グラム・シュミットの直交化により,直交していない複数の線形独立なベクトルから,正規直交基底を求めることができる.これにより,例えば,斜行ベクトルを正規直交基底によって表現することができる.
グラム・シュミットの直交化の手続きは,n個の線形独立なベクトル$\boldsymbol{u_k}$を用いて,
- $\boldsymbol{u_1}$ を正規化したものが1つ目の正規直交基底 $\boldsymbol{v_1}$ になる.
- $\boldsymbol{v} = \boldsymbol{u_2} - (\boldsymbol{u_2} \cdot \boldsymbol{v_1}) \boldsymbol{v_1}$ を計算.
- $\boldsymbol{v}$ を正規化したものが2つ目の正規直交基底 $\boldsymbol{v_2}$ となる.
- 次数ぶんだけ繰り返して正規直交基底を求めていく.
直交行列による対角化
正規直交基底を並べた行列を直交行列と呼ぶ.
- 直交行列の行列式は1か-1である
- 直交行列の転置行列と逆行列はそれぞれ等しい.
実対称行列Aについて固有ベクトルを求め,各固有ベクトルから正規直交基底を求め,正規直交基底を並べた直交行列をPとすると,以下により,対角成分以外が0な対角行列 $\boldsymbol{\Lambda}$ を導くことができる.これを対角化という.
結局,対角行列$\boldsymbol{\Lambda}$の対角成分は,実対称行列Aの固有値を並べたものである.
正定値と負定値
行列$A$がすべての非零ベクトル $\boldsymbol{w}$ に対して, $\boldsymbol{w}^{T} A \boldsymbol{w} > 0$ を満たすとき, $A$ は正定値行列と呼ばれ, $A \succ 0$ と表す.
$A$ がn次の実対称行列であるとすると,直交行列Pが存在するので, $P^T A P = \Lambda$ と対角化できる.ここで, $\boldsymbol{u}=P^T \boldsymbol{w}$ で変換すると, $P^T=P^{-1}$ に注意して,以下のように整理することができる.これは二次形式の標準化(主軸変換)の例であり,対角化による恩恵である.
これより,実対称行列Aのすべての固有値が正であれば,対角行列 $\Lambda$ の対角成分が正になり, $\boldsymbol{u}^T \Lambda \boldsymbol{u}$ が常に正になるので,行列Aは正定値行列である.
また,行列 $A$ がすべての非零ベクトル $\boldsymbol{w}$ に対して, $\boldsymbol{w}^{T} A \boldsymbol{w} \geq 0$ を満たすとき, $A$ は半正定値行列と呼ばれ, $A \succeq 0$ と表す.行列 $A$ のすべての固有値が0以上であれば,行列 $A$ は半正定値である.
更に,負定値・半不定値も定義することができ,固有値が負か0以下であることがそれぞれの条件である.
対角化と座標変換
つづくかも